バックライトインバータ転用時の確認ポイント


■ あ、インバータユニットがない・・・

我々が液晶パネルを購入する場合、その多くは中古品で、パチンコ液晶をはじめとするユニット形式のものだろう。 従って、バックライト用インバータユニットは 既に組み込まれている筈であり、あまり存在を意識することもないようだが、まれに「セット品のインバータユニットがない」「肝心の部分が他の回路と癒着していて 面倒なので別のインバータユニットを使いたい」ということがあるかもしれない。
もちろん、新品の液晶パネルを使う場合で指定品のインバータユニットが手配できない場合にも、同じ問題に直面することになる。
今回は、とある方から譲っていただいた NEC製 NL6448BC20-08(6.5インチVGA液晶)を題材として、インバータユニットを転用する場合に どんなポイントを確認すれば良いか という 目安 を記してみたいと思う。

ご注意!

このレポートは、私自身が行った実験の結果に基づくものですが、製品の個体差や使用環境などの要因により 所定の結果が得られない場合も十分に考えられます。 必ずご自身で入手された個体の確認を行ってからご使用下さい。  最終判断はご自身の責任で!
液晶モニタのバックライトには一般に冷陰極管などのいわゆる「蛍光管」が使用され、数百ボルトの電圧がかかっています。 点灯する瞬間や 無負荷状態のインバータ出力は千ボルト以上の高電圧になることがあり、これらの部分に触れると 感電により人命に関わる可能性もあることをご承知おき下さい。
液晶パネル及びバックライトの蛍光管はガラス部分が多く露出しており、万一破損させると怪我を負うおそれがあります。 また、液晶パネル内部に封入されている薬品は有害です。
何れの場合も実験は使用者本人の責任で行い、液晶パネルや蛍光管等の破損、感電、 その他工具類による事故等には十分注意して下さい。 私、京谷豊は、いかなる事態が発生しても責任は負いません。

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■ インバータユニットを調達しよう・・・

最近は、ジャンク屋さんの店頭にも運が良ければ基板そのものが並ぶようである。 但し、こちらが求めている時に あるかどうかというのが重要なのだが (^^;
あと、同じ位の蛍光管が使われていそうな中古液晶ユニットから拝借するというのがいちばん現実的かな。
ということで、今回のネタは以下の二種類。

◇TDK CXA-L101

秋月電子で 1997年頃(だったと思う)購入。 インバータ基板単体のほか、蛍光管などとセットで色々なバリエーションが存在した。
ちなみに、基板単体でのお値段は 100円だったと記憶している。
  • 基板単体
  • 専用冷陰極管 FLE-48147とのセット
  • 短めの蛍光管とプラケース、電池フォルダのセット
基板のサイズが小さめで、二系統の出力が取り出せるようになっている。 但し、入出力端子が 単なるピン でネジ止め穴もないため、実装上の工夫が必要だ。
◇NEC 型番不詳

デジットで 2003年5月に購入。 お値段 100円。

FIP12-05C-U3というシルク印刷があるが、これが型番かどうかは定かではない。
基板サイズはやや大きめで長細いが、厚みがなく、ネジ穴もあるので取り回しが楽である。 出力はコネクタが付いており NL6448BC20-08 のバックライトコネクタとぴったりはまる・・・が、一系統のみの出力だ。 従って一台にインバータが二つ必要となる。

上記二種類のインバータは 明るさ調整などがない単機能 のものだ。 が、一般的には 明るさを変えるための機能が付いたインバータも多く出回っているようで、一見便利ではあるが、場合によっては 資料がないと何が何だか判らない という事態も予想される (^^;
単に設定用のピンが出ているだけの場合、大抵は 解放にしておけば最大の明るさになる ようであるが、一部には CPUからシリアルデータで制御するものもあり、リスクを避けたければ素性のわからないものには 手を出さない方が賢明だ。

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■ 事前に確認しておくべきことは・・・

とりあえず実験を始める前に、次のような情報を確認しておこう。

一般的に、バックライトとして使われている冷陰極管等、蛍光管をはじめとする放電管の類は 負性抵抗 を持つことで知られている。 放電による電流が多く流れるほど端子電圧が低下するという特性を持っており、普通に電圧をかけただけでは どんどん電流が流れて破壊に至ることになる。
そのため、負荷の蛍光管と直列に大きなインピーダンスを持つ素子を入れ、負荷の端子電圧が変動しても電流が一定になるよう 定電流特性 に近くなるような回路になっている。 ちなみに、昔の家庭用蛍光灯器具では 安定器と呼ばれる大きなコイルが使われていたが、インバータでは発振周波数が商用電源の50〜60Hzよりも遙かに高いため コンデンサが使われることが多く、昇圧トランス自体に定電流特性を持たせることもある。

話を元に戻そう。
NL6448BC20-08のランプ電流 IBLは、データシート上 2.0mA(min) 5.0mA(typ) 6.0mA(max) となっている。
純正インバータの入力電圧 VDDB、電流 IDDBは 5V時 900mA(typ) 1000mA(max) となっている。 つまり、入力電力は約4.5W〜5Wとなる。
画面のイメージは知る由もないが (^^; 他の液晶で 300cd/m2というイメージを確認しておくと良いかも知れない。

データシートがない液晶の場合、標準となるものが得られないので 正常動作時における画面イメージ は最重要事項になる。 ランプ電流やインバータの入力電力は似たような大きさの液晶のデータを目安にするとして、 最終的には、正常動作時のイメージとの比較で判断しなければならない。


■ インバータを動作させてみる・・・

まずはバックライトをつながず、5V電源に接続して電源電流を計ってみよう。
インバータが 12V動作のものであることが判っている場合は、いきなり 12Vに接続しても OKだが、データがないものの場合はとりあえず 5Vから始めた方が安心だ。 ここで明らかに入力電力が異常、例えば純正インバータのデータシート上の値を超えているようなら 要確認だ。 場合によっては不良品の疑いも・・・

とりあえず、1KΩ程度の抵抗を通してバックライト用の蛍光管と接続し、動作させてみよう。
NL6448BC20-08は二本の蛍光管が装着されているが、まずは片側だけでテストと行こう。 ここで、1KΩの抵抗は 1/2〜1W程度の大きめのものを用意し、必ず GND側(コンデンサの入っていない方)に入れることが重要だ。
本来蛍光管自身の極性は気にしなくても良いのだが、液晶への実装上 高圧側と低圧側が決められている ので 注意しなければならない。 液晶からの配線は白線が高圧側、黒線が低圧側となっており、逆にするとケースとの間で放電したりと、ろくなことにならない。
インバータ上のHV(NEC)、OUT1/2(TDK)端子 ※コンデンサが入っている方→白線→蛍光管→黒線→GND端子 ・・・ が正解だ。

ちなみに、電源側は +(NEC)、Vin(TDK)端子がプラス側で、GND端子との間に 12V電源を接続する。
NEC製インバータの電源端子はコネクタが装着されているが、ちょっと特殊なコネクタのようなので、直接 パターンから配線を引き出した方が良いだろう。


オシロスコープで 1KΩ両端の電圧をモニタし、同時にインバータの発振周波数も調べておくと良いだろう。 オシロスコープがない場合、このページ最後に掲載している簡易ピーク値整流回路を作って テスターの電圧レンジで計っても OKだ。 その場合はダイオードでのドロップ分約1.2〜1.4Vを考慮して計算しよう。
最終的に、この電圧を元に管電流を求めてやれば良い。 例えば 1KΩ両端に 14.1Vppの電圧が発生していたとすると、電流値は 14.1mApp。 正弦波と仮定すると実効値は ÷2√2なので、管電流は 5mArmsとなる。
※実際には波形がくずれているので、多少の誤差を含んでいる。

◇NEC製インバータ◇
 H=5μS、V=5V/div (71KHz / 15Vpp)
◇TDK製インバータ◇ ※1灯時
 H=10μS、V=5V/div (37KHz / 16.5Vpp)

実際の 1KΩ両端に発生する波形を観測すると上のようなイメージになる。 電源電圧は 12V時のものだ。
これらの結果から管電流ほかを求めると・・・

 電源電流発振周波数1KΩ両端電圧管電流
NEC 無負荷 56mA---
NEC 1灯時 250mA71KHz15Vpp5.3mArms
TDK 無負荷 47mA---
TDK 1灯時 220mA37KHz16.5Vpp5.9mArms
TDK 2灯時 340mA31KHz15.5Vpp5.5mArms
とりあえずは両方とも合格のようだ (^^)

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■ 管電流がズレている場合は・・・

少々少ない分には暗いだけで何の弊害もないが、もし 6mAを越えているようなら 寿命の点で不利 になるので、何らかの方法で調整しなくてはならない。
具体的には・・・

蛍光管と直列に入っているコンデンサはインバータの発振周波数によって異なり、10pF〜47pFのものが使われることが多いようだが、 高電圧が加わるところでもあり、耐圧が 2〜3KV程度必要になる。 従って入手性も悪く、こいつを可変して調整するのは得策ではない。

昇圧トランスの一次側には大抵コンデンサが並列接続されており、これを変更することで少し発振周波数を変更できる。
今回、TDKのものは 0.1μF×2直列=0.05μF、NECのものは 0.033μFが実装されていた。 別のコンデンサを並列接続すれば発振周波数は 低く(管電流を少なく)、取り外して容量の少ないものに取り替えれば高く(管電流を多く)できる。 が、大きな変更は動作異常や効率低下につながるので、20%程度の変更に とどめるべきだろう。

最後にインバータの電源電圧増減。
入力電力にもよるが、一般的に定格よりも電源電圧を上げるのは良くない。 が、低くする分はあまり問題は起こらない筈だ。
故意に明るさを下げたい場合にも有効だが、中途半端な電圧値では電源を用意するのが大変になるだろう。 三端子レギュレータをはじめとする 即席のドロッパでは、そこそこの電流が流れるため発熱の問題をクリアしないといけない。

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■ 気になる方は確認をどうぞ・・・

あまり気にする必要はないのだろうが、一般に蛍光管は 低温環境下で始動性が悪くなる ことで有名だ。 専用でないインバータを転用、さらに管電流を調整するために電源電圧を下げて使っている場合など、 気温が下がるとうまく始動しない (点灯しない)ことが、ひょっとしたら発生するかも知れない。
この現象が心配な方は、念のために冷蔵庫で液晶とインバータを 0度付近まで冷却し、きちんと始動するか 確認しておくと確実だ。 尚、冷蔵庫に入れる際はビニール袋に入れる等密閉してコードだけ外部に出るようにし、 冷蔵庫から出した際に結露しないよう注意しよう。

上記と関連することだが、インバータの電源電圧を故意に下げ、輝度調整の代用とすることを検討する場合、電源を入れた 最初の 2〜3秒間は最大輝度(最大電圧)になるような回路構成とした方が良いだろう。


■ 最後に、AC電圧測定用簡易ピーク値整流回路・・・

最近は ACの実効値が計れる便利なテスターもあるようだが、もしオシロをお持ちでなく、高い周波数の AC電圧測定に不安があるようなら、 次のような AC電圧測定用簡易ピーク値整流回路 を製作し、DC電圧レンジで測定してみて欲しい。
ちなみに、ダイオードには約 0.6〜0.7Vの順方向電圧降下が発生するので、表示値よりも約 1.2〜1.4Vほど高い電圧がピーク値として発生していることになる。


2003/06/14 Yutaka Kyotani

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