設計編 (Page 3 / 4)

■まずは直流的な部分から定数を求めよう・・・

まずは直流的な部分から検討し、回路定数を求めて行くことにする。
最初に前提条件として、電源電圧 6Vと負荷抵抗 8Ωというのを決定しておこう。
回路図の方は、前のページで使ったものに各部の電流や電圧を書き加えてある。 各ポイントの番号は 本文中に出てくるものと合わせてあるので、この図を見ながら説明の方を読んでいただきたいと思う。

★出力段
まずは、出力段から回路定数を求めて行こう。
最初に R10,R11だが、一般的な値として 0.22〜1Ω程度のものが使われることが多いようだ。  回路の保護やバラツキの軽減という目的からすると高い方が望ましいが、出力に直列に入るためロスが発生する。  今回は小出力ということもあり、回路保護という目的を優先して 1Ωを使用することにした。

続いて TR3,TR4に流れる電流の最大値 [1] を求めておこう。
電源電圧は 6Vなので、出力端子の無信号時の電圧 [7] は 3Vということになる。 負荷は便宜上電源の中間地点 にある 3Vの端子(実際には存在しません)との間に接続されていると仮定して考えてみる。 ここで、負荷抵抗が 8Ω、エミッタの直列抵抗が 1Ω、 電源が片側 3V、TR3の飽和電圧を 0.3Vと仮定すると、
[1] = (3V - 0.3V) / (8Ω + 1Ω) ・・・ 0.3A
TR3,TR4には IC= 0.3A以上のものを使用する必要があることになる。 よく使われる 2SC1815は IC= 0.15Aなので、 使用するのはやめた方が良さそうだ。 IC= 0.7Aの 2SC2001/2SA952あたりを候補としておくことにする。

次は R7,R8だが、まず最初に TR3,TR4が要求する最大のドライブ電流 [2] ( =IB)を求めておき、常時その 1.5〜2倍程度の電流を流すように値を選ぶのが良いようだ。 ここで、TR3とTR4の増幅率が問題となるのだが、 一般的な話として小電流時の増幅率 hFEは値がランク分けされていたりして比較的きちんと管理されているようだ。  が、規格値に近い大電流を流したときの hFEはデータシートから読み取りにくい場合が多く、 実際に小電流時の半分以下になってしまう場合もあるようなので注意した方が良いかも知れない。 今回はデータシート上の最低値 hFE= 50で計算してみた。  (※一般的に IBを多めに流さないとトランジスタというものは望み通りに飽和してくれないものなので (^^;; ・・・)
[2] IB = 300mA / 50 ・・・ 6mA
[3] IB の 2倍流すとして 12mA
TR3のVBE= 0.6V とすると R7+8= (3V - 0.6V) / 0.012A
よって R7+8= 200Ω
ここはブートストラップ回路になっているので、2本の抵抗に振り分ける比率はもう少しきちんと計算すべきかもしれないが、 今回は簡易設計ということで、R7とR8の値はそれぞれ半分ずつの 100Ωに決定した。

★ドライブ段
このブロックにある抵抗は R6だけとなっている。 最初に出てきた法則を活用して TR2のVBE=0.6Vとし、 あとは初段に流したい電流 [5] 、TR2のIB [4] がわかれば計算できる。 初段に流す電流 [5] は比較的自由に決めることができるが、大きすぎず小さすぎずということで、今回は 0.5mAに設定することにする。
TR2の IC [3] = 12mA、hFE= 120 とすると、
[4] IB= 12mA / 120 ・・・ 0.1mA
[5] 初段に流す電流を 0.5mA とすると、
R6= 0.6V / (0.5mA - 0.1mA) ・・・ 1.5KΩ
よって、R6= 1.5KΩに決定する。

★初段
既に先ほど TR1のIC [5] =0.5mAと決めてしまったので、先にエミッタの負帰還ルートにある R4から値を求め、続いてベースに入っている抵抗の値を求めてみよう。 ちなみに R4は比較的自由に値を決めることができるが、TR1のVCEはある程度高くないと特性が悪くなるので、 最低でも 1V以上確保できるように注意しよう。
R4= 1.5KΩ、出力端子の電圧 [7] = 3V とすると、
[8] VE= 3V - (0.5mA * 1.5KΩ) ・・・ 2.25V
[9] VB= 2.25V - 0.6V ・・・ 1.65V
※TR1のVCE= 2.25V - 0.6V ・・・ 1.65V → OK
ここで、TR1のベース電圧VB [9] を求めることができたので、まずは R3に適当な値を設定してしまい、あとは分圧比で R1とR2の合計値を求めることにする。 目安として R1〜R3に IBの10倍程度の電流 [6] を流すことができれば、 分圧比だけで計算してしまってもほとんど誤差を気にしなくても良いようだ。
ここで、IBは数μAなので、R1〜R3に流す電流 [6] を50μA以上とすると、
R3= 1.65V / 0.05mA ・・・ 33KΩ以下
今回はもう少し余裕をみて R3= 22KΩに決定した。 この値から R1〜R2を求めると、
R1+2= (6V - 1.65V) / (1.65V / 22KΩ) ・・・ 58KΩ
これを分割し、R1= 10KΩ、R2= 47KΩに決定した。


■続いて交流的な定数も求めよう・・・

続いて交流回路についても検討し、回路定数を求めて行くことにする。
・・・と言っても、今回の回路の場合は信号経路に入っている電解コンデンサの値を決めるだけだったりする (^^;;
数も少ないので、気楽に行ってみよう!

ある周波数におけるコンデンサの持つ抵抗分(リアクタンス)は次の式で求めることができる。
Z= 1 / 2πfc [Ω]
※ f= 周波数[Hz]、c= コンデンサの容量[F]
しかし、いちいちこんな計算をするのも面倒なので、信号経路のコンデンサの値を求める程度なら、 次のような 簡易計算値 を頭の片隅にプリセットしておくと便利でしょう。
0.1μFのコンデンサは 100Hzで約16KΩ
後は、容量が大きくなれば抵抗分は減少する、周波数が高くなれば抵抗分は減少するという原則を知っているだけで、 比例関係を使って適切な値をあてはめることも十分可能となる。
例えば、周波数は 100Hzのままとすると、1μFなら1.6KΩ、10μFなら160Ω、100μFなら16Ω・・・ こんな感じで OKだ。

★出力段
それでは、出力段から実際の値を決定してみよう。
まずは C7、出力端子の直流分カットのためのコンデンサだ。 ここは 8Ωのスピーカーが直接つながるため、 容量はある程度大きくしておきたい所だ。 一般的な値として、小型の機器では 100μF程度の容量で済まされることもあるようだが、 220〜2200μFが使われていることが多いようだ。 100Hzの信号に対する影響を先ほどの例に倣って検討してみると、 1000μFなら1.6Ω、500μFなら3.2Ωとなり、本心としては 1000μFを使いたいところだが、かなり外形が大きくなるため、 今回は 470μFに決定した。 したがって、周波数特性も 100Hzの少し上から下がる特性となることが予想される。
また、電源ラインに入れるコンデンサ C8についても、C7と同容量の 470μFと決定した。

続いて C4、ブートストラップ用のコンデンサだ。 ブートストラップの効能については最後に補足説明をさせていただくが、 ここではこの回路の負荷として R7のみを考える。 100Hzの信号では 100μFで16Ω、200μFで8Ωとなるが、R7に 100Ωが使われていることから C4= 100μFに決定する

★ドライブ段
ここは高域補償用の C5があるが、あまりきちんと計算する性格のものではないので、経験的な値から 47PFということに決定し、 特に異常発振などの問題がなければそのまま行くことにする。

★初段
このブロックでいちばん慎重に決定しないといけないものが C3だ。 負帰還ルートに入っており、直流的には 100%の負帰還、交流的にはこの C3からR5に至るルートで分圧して適当な量の負帰還に調節する役目を持っている。 つまり、 アンプとしての増幅率をここで決定していることになる。 実はここで R5の値がまだ決定されていないので、 先に決めてしまおう。
一般に、オーディオ用のパワーアンプは 1V程度の入力で最大出力が得られるように増幅率を設定する場合が多いようだが、 今回は他の機器のヘッドフォン端子に接続する予定なので、入力レベルもそれに合わせるのが望ましい。 具体的には、 ライン入力のレベルよりも少し低い値の数十mV程度の入力レベルを想定し、増幅率を 30倍程度に設定することにする。
建前として、アンプが持つ裸の(無帰還での)増幅率が無限大なら、増幅率は負帰還回路の分圧比の逆数になるという目安がある。 ここで R4が既に 1.5KΩと決定されていることから、R5の値としては今回 47Ωと決定した。 裸の増幅率が無限大なら、この定数で
G= 1 / (47Ω / (47Ω + 1500Ω)) ・・・ 32.9倍
が得られるはずだが、実際には 30倍弱となるだろう。
さて、上記のように R5を47Ωと決定したため、C3もある程度大きな容量が必要だ。
ここで、100Hzの信号では 100μFで16Ω、200μFで8Ωとなるため、本心としては 220μFを使いたいところだが、 先ほど同様外形面への影響を考えた結果、妥協点として 100μFに決定した。

次は入力信号用の C1と、電源からのノイズをカットする C2だが、こちらは適当に決めてしまおう。
C1には R2とR3が直接接続されている。 合成抵抗値は十数KΩなので、1μF(1.6KΩ @100Hz)で OKだろう。 続いて C2だが、R1が 10KΩということから、10μF(160Ω @100Hz)に決定した。


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